来音と千音~たましいの物語3~

あれから、どれくらいここにいるんだろう?

月明かりを物悲しく眺めながら、千音は、ここに来た経由を思い出していました。

あの日、千音は来音の為に、薬草を積みに森へ入っていきました。何故なら、来音が手にやけどや傷を残して、仕事から帰ってくることが多くなったからです。森に行くついでに、来音の誕生日も近い為、サプライズプレゼントを、森の隣に続く村に買いに行くことにしていました。実は手の傷は、来音が千音に愛を誓った指輪を自ら作った時のものなのですが、千音には、内緒にしていた為、仕事内の傷と、千音は思い違いをしていたのでした。

そんな時、記憶を失ったという女性に出会いました。この女性が最後に覚えているのは、風邪をひいてしまった誰かの為に、薬草を積みに森に入った所で、どういう訳か記憶を失い、道に迷ったというのです。

千音は、この女性を気の毒に思い、おそらく森を挟んだ隣の村の者で在ろうと予測し、風邪に良い薬草を探して待たせ、家まで付き添う事に決めました。

千音は、「夕食は一緒に食べようね。話したい事があるんだ。」そういって、嬉しそうにしていた、来音の笑顔を思い出しました。

少し、遅れても来音なら分かってくれるわ。

そう思って、千音は、隣の村へ歩き始めました。

ふと、振り返ると、そこには女性の姿がありませんでした。

千音は、心配になって、女性を探すことにしました。

背後から、物音がしたと思ったら、頭に鈍い音が響きそのまま記憶を失ってしまいました。

目が覚めた千音の手には、縄が掛かっていました。

千音は恐ろしくて泣いてしまいました。

何者かに、囚われてしまった千音は、毎日月明かりを見ながら、来音が助けに来てくれる事を、信じて待っていました。

必ず、来音なら迎えに来てくれる。

そう、月の精霊に祈りながら恐怖で、千音は涙が止まらなかったのでした。

救いを求める者

救い出したい者

その想いは、恐れからか愛なのか

月の精霊たちは、「真実の愛」に全てを託した。

さて、時間軸を来音に戻します。

「ギャー!」

来音の背後で、悲鳴がしました。馬が暴れ出し、来音は振り落とされてしまいました。

見上げると、そこには、家にいるはずの女性がいました。どうしたのか、訳を聞いてみると、一人で家にいるのが怖くなったから、来音の後を追ってきたのだというのです。その道中、物影に驚いてしまい、声を上げてしまったとのことです。

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来音は、その女性に馬に乗って家に、帰る様に促そうとしましたが、いつの間にか、忽然と馬の姿はいなくなっていました。

来音は、女性を一人で歩いて帰す訳にもいかずに、引き返す事にしました。

月明かりが泣いているように見えました。

朝になり、来音は、女性に不安にならずに留守番をしてもらうために、本を買いに行きました。

懐かしい本を見つけました。千音がよく読んでいた本です。

「月の精霊」のお話で、月の精霊は、人々の幸せを願って、夢にメッセージを送る仕事をしている月の精霊の世界を語った、挿絵の美しい物語です。千音は眠るのが怖い時は「月の精霊」に会えると信じて安心して眠っていました。

何となく、最後のページを開いてみたらこんなことが書いていました。

『月夜の美しい時、二つの扉が開く 

ひとつは、蛇(じゃ)の世界へ続く 邪民の村

もうひとつは、精霊の世界へ続く 聖民の村

人は、蛇でもなければ精霊でもない

人の心が決める それが 運命の分かれ道』

来音は、不思議に思います。

「こんな文章あったけなぁ。」

本心は、追い詰められた時にこそ全て見える。

敵か味方か

蛇か聖か

続く

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