来音と千音~たましいの物語7~

千音とシャルル達のひっかき大作戦は、難航していました。

それもそのはずです。いくら朽ちていてもそう簡単に窓枠は壊れません。

千音は疲れ果ててしまい思わず床に座り込んでしまいました。またシャルル達も、爪元から血が出始めましたので、しばし休憩を取ることにしました。

やるせない気持ちの千音は月を眺めながら歌い始めました。

月夜に美しい旋律が聴こえたならば

精霊たちの歌声に耳澄ませ

清き耳であれば、共に奏でることができよう

静寂の祈りの中、神を想うか我を想うか

月の慈しむ愛が、今宵も美しき旋律を奏でる

歌いながら千音は「私は一体どうしたらいいのだろう・・・。」

思わず涙が一粒流れ落ちました。

そしてまた一粒また一粒・・・。

いつしか涙が止まらなくなってしまいました。

シャルル達は、すっかり弱気になってしまった千音を、勇気づけるかのように、また窓枠をひっかき始めました。中には爪が折れてしまう猫も居ましたが、みんな決して諦めませんでした。

シャルル達は、千音と一緒に日向ぼっこをしながら、話や歌を聞いて、心が温まる日々を取り戻したいと考えていました。

そんな時、どうしようもない現状を見て、月の精霊が何かを祈り始めました。

月の精霊の頭上はこの世で見たことない程、美しい宝石の様な輝きを放っていました。

月がほんの一瞬、息をのむ程、輝いたと思った時。

ゴゴゴゴゴゴゴォォォ

地鳴りと共に稲妻が遠くでうごめいていました。

危険を察知して、千音は慌ててシャルル達を、窓枠から逃がしました。

「どこか安全な所へいってちょうだい。」

裂ける様な雷の音はどんどん近づいてきました。恐る恐る窓から様子をみると雷ばかりではありません。

あたり一面を巻き込みながら竜巻が、こちらに向かってくるではありませんか。

千音とシャルルは、遠く離れたところからアイコンタクトを取り、お互いの無事を祈り合いました。千音はあまりの恐怖に目を瞑って大きな柱にしがみ付くしかありませんでした。シャルル達も怖くて仕方なくて目を瞑って、可能な限り身を低くして近くの岩穴に震えながら隠れました。

ゴゴゴゴゴゴゴ!!ビューー-!!

もう、すぐそばまで来ています。

バリバリバリッ!!ドォーーーーーーン!!!!

耳がキーーーーーンと張りつめ、しばらく何も聞こえませんでした。

どれだけ時間が立ったか分かりませんが、ゆっくりゆっくりと千音は目を開けました。

辺りを見渡し驚きを隠せませんでした。

さっきまで、四苦八苦していた窓枠がすっかり無くなっていました。

いえ、窓枠どころか壁一枚無くなっていました。

あまりに衝撃的な光景に唖然としながらも、千音は「これで、囚われの身から解放されるわ!」と歓喜をあげていました。

そこへ、一体の龍がやってきました。

「千音、お前は月夜に我を想うか、神を想うか?」

龍の問いかけに千音はこう答えました。

「月夜に仲間の愛と勇気を想い、神を想います。」

龍は頷き、軽快に去っていきました。

月の精霊がまた現れて、月明かりで道を照らしながら千音にこう言いました。

「千音、月明かりを頼りに逃げるのよ。」

駆け寄っってきたシャルル達と互いの無事を心から喜び合うのも、つかの間、とにかく一刻も早くこの場から離れる事にしました。

目の前に、美しい月明かりに照らされた、一頭の馬が現れました。

馬は何か言いたそうに、千音をジッと見つめていました。

千音は歩み寄って、馬を撫でてコミュニケーションを取る事にしました。

撫でている手に何かが引っ掛かり、馬の首に指輪が括り付けているのを見つけました。

指輪をよく見てみると、内側に何か刻まれていました。

『Dear Chion :True love :From your Raion』

このメッセージを読み、あの時、照れくさそうに「大事な話がある」といって来音が切り出し、一緒に食事をする約束をした日の事を思い出しました。

「まさかプロポーズをするつもりだったなんて・・。」

「来音に会わなきゃ!」

「来音が待っているわ!」

千音は、来音の愛を信じ、勢いよく馬に乗りました。

「お馬さん、来音の所に連れて行ってちょうだい。」

停めようとするシャルル達に気付かず、後で合流する約束をして、千音は馬と共に勢い良く、来音の元へと向かいました。

月夜に神に祈りを捧げ、神を想う

龍は神の御心に合わせ舞い踊る

我と神が一体となるまで舞い踊る

さて、次回は満月の結婚式を迎える来音の時間軸です。千音と再会?来音の心は戻るのか?

来音と千音~たましいの物語~6

月夜に美しい旋律が聴こえたならば

精霊たちの歌声に耳澄ませ

清き耳であれば、共に奏でることができよう

静寂の祈りの中、神を想うか我を想うか

月の慈しむ愛が、今宵も美しき旋律を奏でる

千音は、夢をみていました。猫のシャルルたちと陽だまりの中、千音は「うさぎとかめ」の話をした事を、夢の中で思い出していました。

うさぎは、かめのあしのおそさを、ばかにしました。うさぎとかめは「かけっこ」をしてどちらが、はやくゴールできるか、ためしてみることにしました。
うさぎは、あまりにおそいかめと、かけっこするのが、ばからしくなり、かけっこのとちゅうで、ねむってしまいました。そのすきに、かめはうさぎよりも、さきにゴールをすることができたのです。

千音はシャルル達に、不得意な事を指さし笑う「うさぎ」と、自分の不得意さを恥じる事無く、懸命に挑む「かめ」の共通点は「自信」なんだと話しました。うさぎは「自信過剰」で、かめは、予測できる結果がどうであれ「自分を信じる事」を諦めなかったから、神様がご褒美をくれたんだと、千音はシャルル達に声を弾ませ言い聞かせていました。シャルル達は「自分を信じる」大切さに、キラキラした様子で千音の話をジッと聞いていました。

フッと夢から覚めて、千音は思いました。

「今の私は自分を信じれているかしら?」

月明かりが差す、小さな窓をみると「満月」でした。

そう、今夜は「脱出決行日」だったのです。

月の精霊が「千音?心の準備はいい?」

千音は、自分に言い聞かせるように、静かに頷きました。

小さな窓のひとつに、月の色をした美しい小さな光がキラキラと集まっていました。

千音は、導かれるように、その小さな窓の方に向かいました。

よく、窓枠を見てみると枠が風化により朽ちているのが、分かりました。

「何とかなるかも、しれない。」

千音は、この窓枠を壊せる硬いものはないかと、辺りを見回しました。

その時

外が騒がしくなりました。

ニャーニャーニャー

猫の鳴き声が、何重にもなって聞こえてきました。

外を見ようと、窓に近づきました。なんと窓の外側にシャルルが居ました。

千音は、驚きとシャルルに会えた喜びで、一気に勇気が湧きました。

シャルルが千音に、愛情深く微笑んでいる様に見えました。シャルルは爪で朽ちた窓枠をひっかき始めました。

その音を聞き、外窓の縁に乗れる分だけの、猫が集まって皆で窓枠をひっかき始めました。

千音は、この行動を見てシャルル達みんなが、自分を助けにきてくれたのだと理解し、嬉しくて仕方がなくて、笑顔と涙でぐちゃぐちゃになっていました。そしてポケットのハンカチを出そうとしたとき、家の鍵が落ちました。

「そうだ!鍵で朽ちたところを壊してみよう。」

こうして、千音とシャルル達は必死で、窓枠を壊し始めました。

さて、こちらは来音の時間軸です。

「満月の夜」には、ふたつの物語があります。

一つ目は、「千音の脱出」

二つ目は、「来音と紅の結婚式」です。

来音は、八つの村を統一する石王国の王に、紅は王妃となります。

王となったらもう後戻りは出来ません。

来音にとってこの日は、王になる事で、多くを得て「愛する者を失う恐れ」からの脱却の日でもありました。

「愛する者」の存在は、いつしか来音にとって「心の最大の弱点」である為、二度と深入りなどしたくなかったのです。

指輪の精霊の言葉が、聴こえた気がしました。

「愛というものは、人間にとって多くを奪うものなのか?」

あの時、千音への純粋な愛を、指輪の精霊に誓った過去の記憶が、ぼんやりと頭に浮かびました。

でも、来音は「無意味な記憶」として頭から追い払い、結婚式を迎える事にしました。

結婚式を迎えた紅は、笑いが止まりませんでした。

「これで、全てが整ったわ。」

そう笑い。いつもと違って上機嫌でした。

紅の身の回りをお世話してきた者たちは、ホッと肩をなでおろしました。

何故なら、紅を怒らすと大変だからです。

紅は、人を使って必ず、気に食わない者を貶めて来たからです。

その嫌な役目を断ると、次は必ず自分が貶められる為、皆は紅に従うしかありませんでした。「紅の機嫌が良ければ、誰も傷つかない。」だからこの日は、皆にとっても嬉しい日でした。

指輪交換の時に、来音は月明りから、声が聴こえた気がしました。

「来音?あなたは幸せなの?」「わたしたち、精霊はもうあなたのそばには居られなくなるわ。」「来音。あなたは本当に幸せなの?」

来音は、振り払うように「指輪」を手にしました。

来音は、手に取った結婚指輪がとても冷たかった感覚だけは、手の中にいつまでも残りました。

愛とは、奪うものではなく、与えるものである。

しかし、愛を失う痛みや苦しみは、与えた分だけ大きい。

でも、それは理解するより、理解されることを望んだからなのかもしれない。

また、愛とは生きる根源そのものなのである。

「生」を産みだし

「死」を迎えるから「今」を刻む

そこに、「愛」が宿らなければ

「生きながらに死んでいる」ようなもの

あなたの心は「生」か「死」か?

与えられるよりも与えることを

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さて、シャルルたちの「ひっかき大作戦」は吉と出るのか?また思うわぬ救世主現る?!

続く

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