
愛を追うものは、愛に拒まれ
愛を分け与える者は、愛を与えられる
幾千の時代に、何度も巡り合う魂
互いの、魂を「音」で知る
寄り添うもつかの間
真の愛こそ難多き旅
それが真の道の定めにあり
叶わぬ想い、来世へ継がれる
嘆かわしいふたつの魂


千音は、ここからどうすれば、脱出できるのか必死で考えてました。
最初は、囚われた恐怖心から助けてもらう事ばかりを考えていましたが、自分で抜け出す策を練る事にしました。何故なら、助けに来た来音が、危険にさらされるような事があってはならないからです。
来音は、千音が落ち込んでいるときは決まって「千音は強くて賢いから大丈夫だよ。」といって励ましてくれた事を、思い出したのです。
そして、千音は月の精霊に、来音への伝言を頼みました。
「来音へ 私を探しに来ないで もうあれからどうれだけの月日が流れたのか分からないわ。ここから、出れるか分からない私の事は、忘れて幸せになってね。」
月の精霊は、千音に聞きます。
「本当にそれでいいの?」
千音は、ただ静かに泣いていました。
哀れに思った、月の精霊は千音に寄り添う事に決めました。
この日から、月の精霊と千音は一番の友達になりました。
月から見守れる安全なルートで、逃げ出す事に決めました。
決行の日は、月明かりが良く届く「満月の日」にしました。

さて、来音の時間軸です。

来音は、記憶を失った女性の名前と住んでいた場所を、知ることになります。
服のポケットに、名前と家の所が記されたペンダントを洗濯した時に、発見したのです。
名前は、「紅・べに」で家は、隣村の石職人の村でした。
紅は、なぜそんなに森へ行くのかを来音に尋ねました。
来音は、紅に全てを話しました。どれだけ、千音を愛しているかも。
紅はこう言いました。
「あなたは、きっと騙されているわ。運命の人なら、あなたの前から居なくなるわけないわ。運命の人じゃないから、縁が切れたのよ。あなたをこんなに不安にさせて、きっとその女は蛇に違いないわ。私はあなたを裏切らない。ずっとそばにいてあげる。危険なものは全て私が取り去ってあげるわ。私こそあなたの真実の愛の相手なのよ。だから神が私たち二人を巡り合わせたのよ。神を裏切る事なんてできないわ。お願い私から、離れないで。その女は魔物なのだから。一緒に幸せになりましょう。いつまでも、過去を追うなんてあなたの両親や、友人がみんな心配するわ。辛いだろうけど、あなたを不幸にさせる縁もきっとあるのよ。」

来音は、もう千音を忘れた方が良いのではないかと思い始めました。
確かに、紅の言う通り、千音が居なくなってからは、自分の殻にこもりきりでした。どれだけの友人が自分の元を去った事か。真実の相手なら、自分に幸福感を与えてくれるに決まっていると、紅の意見に賛同したのでした。
来音の様子を見に来た月の精霊は、千音の涙の訳が分かった気がしました。
月の精霊は、千音の元に帰りました。
千音は「来音が今日も幸せでありますように。」そう言って祈りを捧げていました。
月の精霊は、この時、初めて泣きました。
精霊たちは、誓いに背くことはありません。しかし人間は、意図も簡単に誓いを消し忘れてしまう無情さに、精霊たちは心を痛めるのです。
何も知らない千音は、月の精霊を優しくいつまでも励まし続けました。
さて、この後も、運命の歯車は容赦なく千音に痛みを与えるのでした。
続く
lightnavigation ライトナビゲーション 大分