
月夜に美しい旋律が聴こえたならば
精霊たちの歌声に耳澄ませ
清き耳であれば、共に奏でることができよう
静寂の祈りの中、神を想うか我を想うか
月の慈しむ愛が、今宵も美しき旋律を奏でる

千音は、夢をみていました。猫のシャルルたちと陽だまりの中、千音は「うさぎとかめ」の話をした事を、夢の中で思い出していました。
うさぎは、かめのあしのおそさを、ばかにしました。うさぎとかめは「かけっこ」をしてどちらが、はやくゴールできるか、ためしてみることにしました。 うさぎは、あまりにおそいかめと、かけっこするのが、ばからしくなり、かけっこのとちゅうで、ねむってしまいました。そのすきに、かめはうさぎよりも、さきにゴールをすることができたのです。
千音はシャルル達に、不得意な事を指さし笑う「うさぎ」と、自分の不得意さを恥じる事無く、懸命に挑む「かめ」の共通点は「自信」なんだと話しました。うさぎは「自信過剰」で、かめは、予測できる結果がどうであれ「自分を信じる事」を諦めなかったから、神様がご褒美をくれたんだと、千音はシャルル達に声を弾ませ言い聞かせていました。シャルル達は「自分を信じる」大切さに、キラキラした様子で千音の話をジッと聞いていました。
フッと夢から覚めて、千音は思いました。
「今の私は自分を信じれているかしら?」
月明かりが差す、小さな窓をみると「満月」でした。
そう、今夜は「脱出決行日」だったのです。
月の精霊が「千音?心の準備はいい?」

千音は、自分に言い聞かせるように、静かに頷きました。
小さな窓のひとつに、月の色をした美しい小さな光がキラキラと集まっていました。
千音は、導かれるように、その小さな窓の方に向かいました。
よく、窓枠を見てみると枠が風化により朽ちているのが、分かりました。

「何とかなるかも、しれない。」
千音は、この窓枠を壊せる硬いものはないかと、辺りを見回しました。
その時
外が騒がしくなりました。
ニャーニャーニャー
猫の鳴き声が、何重にもなって聞こえてきました。
外を見ようと、窓に近づきました。なんと窓の外側にシャルルが居ました。

千音は、驚きとシャルルに会えた喜びで、一気に勇気が湧きました。
シャルルが千音に、愛情深く微笑んでいる様に見えました。シャルルは爪で朽ちた窓枠をひっかき始めました。
その音を聞き、外窓の縁に乗れる分だけの、猫が集まって皆で窓枠をひっかき始めました。
千音は、この行動を見てシャルル達みんなが、自分を助けにきてくれたのだと理解し、嬉しくて仕方がなくて、笑顔と涙でぐちゃぐちゃになっていました。そしてポケットのハンカチを出そうとしたとき、家の鍵が落ちました。
「そうだ!鍵で朽ちたところを壊してみよう。」
こうして、千音とシャルル達は必死で、窓枠を壊し始めました。

さて、こちらは来音の時間軸です。
「満月の夜」には、ふたつの物語があります。
一つ目は、「千音の脱出」
二つ目は、「来音と紅の結婚式」です。
来音は、八つの村を統一する石王国の王に、紅は王妃となります。

王となったらもう後戻りは出来ません。
来音にとってこの日は、王になる事で、多くを得て「愛する者を失う恐れ」からの脱却の日でもありました。
「愛する者」の存在は、いつしか来音にとって「心の最大の弱点」である為、二度と深入りなどしたくなかったのです。
指輪の精霊の言葉が、聴こえた気がしました。
「愛というものは、人間にとって多くを奪うものなのか?」

あの時、千音への純粋な愛を、指輪の精霊に誓った過去の記憶が、ぼんやりと頭に浮かびました。
でも、来音は「無意味な記憶」として頭から追い払い、結婚式を迎える事にしました。

結婚式を迎えた紅は、笑いが止まりませんでした。
「これで、全てが整ったわ。」
そう笑い。いつもと違って上機嫌でした。
紅の身の回りをお世話してきた者たちは、ホッと肩をなでおろしました。
何故なら、紅を怒らすと大変だからです。
紅は、人を使って必ず、気に食わない者を貶めて来たからです。
その嫌な役目を断ると、次は必ず自分が貶められる為、皆は紅に従うしかありませんでした。「紅の機嫌が良ければ、誰も傷つかない。」だからこの日は、皆にとっても嬉しい日でした。

指輪交換の時に、来音は月明りから、声が聴こえた気がしました。
「来音?あなたは幸せなの?」「わたしたち、精霊はもうあなたのそばには居られなくなるわ。」「来音。あなたは本当に幸せなの?」
来音は、振り払うように「指輪」を手にしました。

来音は、手に取った結婚指輪がとても冷たかった感覚だけは、手の中にいつまでも残りました。

愛とは、奪うものではなく、与えるものである。
しかし、愛を失う痛みや苦しみは、与えた分だけ大きい。
でも、それは理解するより、理解されることを望んだからなのかもしれない。
また、愛とは生きる根源そのものなのである。
「生」を産みだし
「死」を迎えるから「今」を刻む
そこに、「愛」が宿らなければ
「生きながらに死んでいる」ようなもの
あなたの心は「生」か「死」か?
与えられるよりも与えることを

さて、シャルルたちの「ひっかき大作戦」は吉と出るのか?また思うわぬ救世主現る?!
続く
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