来音と千音~たましいの物語9~

深い眠りに落ちた千音は、何日も眠り続けました。

千音を心配した月の精霊は、来音の下に訪れました。

月の精霊が現れるころ、来音は権力と財力を手に入れても「幸福」を感じられずに、憂さ晴らしのためにお酒を浴びる程飲み、その場で気を失うように眠っていました。

その姿を見て月の精霊は、深いため息をつきました。

来音のおでこに慈愛の光を残し、月に帰って行きました。来音は、夢を見ました。千音が月の中で、来音と紅の結婚式を悲しんでいる姿が見えました。千音から流れ落ちる涙は「誰も責める事は出来ない、物悲しい美しい涙」に感じました。その宝石の様な美しい涙を見て、来音は感情のダムが崩壊し、叫ぶように泣きました。もう誰に見られても構わないくらい全ての感情を出し切りました。

フッと夢から覚めて、コップの残り酒に映った自分を見て思いました。

「これは誰だろう?」

「本当の自分なんだろか?」

来音は、騎士団の宿舎に自ら歩いていきました。

驚いた騎士団たちは、何事かとざわつきました。来音は、総長を呼びだし指示を出しました。

「千音を探せ」

騎士団の総長は、以前この名前を聞いたことがあります。来音が酔いつぶれた時に寝言で、愛しそうに呟いていた名前でした。この総長は、とても人想いの優しい気質で、多くの者が頼りにしていました。愛情豊かな事もあり、王の言わんとする心情を察して、信頼できる騎士と共に「千音探し」に繰り出しました。

来音は、月の精霊が優しく微笑んだように感じ、初めて自分を少し取り戻したような気がしました。

千音の下に、シャルル達が訪れました。

生気の無い千音は、ただひたすら眠っていました。そんな時、馬の息遣いと共に、懐かしい匂いがしました。シャルルは扉に迎え歩み、訪問者を千音の下へ案内しました。

ようやく、千音がシャルルの鳴き声で、深い眠りから感覚が現実へと戻ってきました。

(一体どれくらい眠っていたのかしら?)

意識がもうろうとしている中、シャルルの後ろに立っている来音を見ました。

来音は何か千音に向かって、話しているのですが、千音は、聞き取ることができませんでした。

(来音・・。聞こえない・・。聞こえない・・。)

次は、鳥のさえずりで、はっきりと目が覚めました。

ハッとしてあたりを見回してみましたが、そこに来音の姿はありませんでした。

その変わりに、目の前に広がる光景を見て、千音は驚きを隠せませんでした。

その、光景を目の当たりにして、来音の優しさの中に存在する自分を、ひとつひとつ大事に感じ取っていました。

続く

⇒さて、その光景とは何でしょうか?

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