来音と千音~たましいの物語8~

満月の夜に結婚式を迎えた来音と紅。

紅は指輪交換の時に、「この指輪の秘密」について思い出していました。

この結婚指輪は、実は紅のかつての婚約者との為に作られたものでした。

紅の元婚約者は、貿易の仕事の為に、乗り込んだ船が難破し帰らぬ人となってしまったのです。政略結婚ではあったものの、相手は紅が幼い頃から憧れていた人でやっとの思いで、結婚まで到達出来た想いが強く残り悲しみはいつしか恨みと怒りへと変わりました。

紅は幼い頃から、自分の欲しいものは全て手に入れ、誰に怒られる事もなく、また気に食わない者には苦痛を与える事で自分を保ってきました。

この出来事は、更に紅をダークな世界へと堕としていきました。

「私がこんなに不幸なんだから世の人々はもっと不幸になればいい。そうすれば、みじめな思いなどしなくていいわ。」

ある日、城の使いの者があまりの苦痛に耐えきれずに、紅から逃げ出しました。

そして、逃げ出す人の数は日毎増していきました。

紅は逃げ出す者たちのルートを探り、さらに苦痛を与えてやろうと森に入っていきました。

森を歩いているといつの間にか朝を迎え、朝日の美しい光の中に、ひとりの女性の姿が見えました。

その女性の周りにはたくさんの猫や犬たちが、くつろいで戯れていました。

そして、女性はひとりの男性との愛に包まれた話を動物たちに幸せそうに話をしていました。

その女性の表情はこの上ない幸せで満ち溢れていました。

女性を見れば見る程、話を聞けば聞くほど紅は「許せない」気持ちで憎悪が抑えきれませんでした。私が掴むハズだった幸せをこの女が味わっているなんて許せない。

「私と同じみじめな想いをさせてあげる。その幸せは私のものよ!」

紅はいかにして、この女性に苦痛を与えるか緻密に計画を立て始めました。

紅はこの瞬間がとても充実しています。

「あの幸せそうな顔を必ず不幸のどん底に墜とし込めてやるわ。」

女性の後をこっそり追い、日常を観察した上で、どの方法が一番苦痛を、与える事ができるか紅は考えることにしました。

そして生気のない不幸な表情を思い浮かべるだけで、紅は笑いが止まりませんでした。

そんなある日、鼻歌を歌いながらあの女性が、薬草カゴを持って森に入って行くのが見えました。

「今だわ」

紅は女性にそっと近づきこう伝えました。

「道に迷ってしまったの。記憶も無くしてしまったみたい・・・。きっと誰かが風邪を引いてしまったからこの森の薬草を摘みに来たはずなんだけど・・。」

その女性は、紅が想像していたよりも遥かに、親切に寄り添ってくれましたが、紅には疎ましくて仕方がありませんでした。また親切にした分、裏切られた悲しみは深くなるだろうと想定し紅は、言葉巧みに弱い自分を演じ続け、その女性に擦り寄りました。

そして、隙をみて背後から頭を思い切り拾った太い木で、殴り付けました。

そこへ以前、紅の城から逃げ出した使いの者に「見逃してやるから、この女を城の監禁部屋に入れろ。」と指示を出したのです。

そうです。こうして紅は巧みに千音を監禁部屋に追いやったのでした。

そして、次は、千音の最愛である来音に隙入る為に、千音を失った来音の心が一番弱まる時を粘質的に待ち望んでいました。

月明かりの下で来音を見つけた時、紅は「神は自分の味方である」と強く思いました。

紅は全ての憎しみは「千音」が肩代わりするべきで千音の「幸せ」は全て自分が受けるべきだと神に祈りを捧げました。

そして、紅は悪神に魂を売りました。

紅は力が沸き上がり「これが幸せへの最善の方法」と悪神に全てを委ねました。

紅と来音は結婚式を終え、来客のお見送りをするところでした。

そこへ、命からがら監禁部屋から脱出し、来音が千音の為に作った婚約指輪を馬の首にぶら下がっているのを発見して、来音の愛を信じて馬に乗り込んだ千音が到着しました。

そして、結婚式のお見送りをしている仲睦まじい二人の姿を千音は見る事となってしまいました。

「どうして・・。こんなことに・・。」

「来音の心にもう私はいない。」

隣の女性はあの時の『記憶を失った女性』

この後『頭に鈍痛が走り、気を失い監禁された記憶』

全てが闇の中を蠢く浅ましい戦略である様な、感覚が消えませんでした。

昔「月の精霊」の本で蛇民の事を知り、また違う書物で蛇民が何をしてきたかの歴史の本を千音は読んでいたことがあります。

「まるで・・。蛇民のやりかた・・。」

また、蛇民に心を売るものはもう戻らないと村人は信じていました。

千音は、悲しみなのか、怒りなのか、恐れなのか何が何だか分からない感情が溢れだしその場から、逃げる様に馬に乗り込み立ち去りました。

千音はこのまま消えてしまいたいと、崖の上に馬を走らせました。

どのくらい、どの道を走ったでしょうか?

崖の一寸先にひとつの城が見えてきました。

馬は迷わずこの城に向かいました。

人気の全くない城の扉の前に到着した時、千音は何も考えれないくらい衰弱していました。

何とか扉を空け、千音はそのまま深い眠りに落ちていきました。

『月夜の美しい時、二つの扉が開く 

ひとつは、蛇(じゃ)の世界へ続く 邪民の村

もうひとつは、精霊の世界へ続く 聖民の村

人は、蛇でもなければ精霊でもない

人の心が決める それが 運命の分かれ道 :月の精霊の本』

ライトナビゲーション大分

さて、次回は・・・・。一体どうなるのでしょうか!?一緒に想像してみてください。「来音と千音~たましいの物語~」好評頂きありがとうございます。引き続きお楽しみ下さい。

©2022 light☆navigation