
来音の気配をかすかに感じながら、千音はベットの上から辺りを見回してみました。
いつの間にか、倒れ込んだ床ではなくふかふかのベットの上で、目覚めた事にも驚きましたが、それだけではありません。誰もいないはずの食堂からも、美味しそうな匂いがしてきます。
また、ここは無人の廃墟だと思っていたのに、窓には美しいカーテンが装飾され、カーテンの隙間からの陽の光が、ピカピカに磨かれた床を美しく照らしていました。衣装スペースには新しく清潔な衣服や靴、美しいドレスや装飾品が、ズラッと並び揃えられていました。
千音は、好奇心の湧くまま、敷地内を歩き回り、この「不思議な出来事」について調べる事にしました。まず最初に分かった事は、書斎の書物からここは以前、城の一部を「薬草診療所」として多くの人に使用されていた事を知りました。薬草の好きな千音は何か「縁」を感じて少し嬉しくなりました。
疑問は最初に戻り、一体誰が千音が眠っていた間に、この城を再び人が住めるように整えたのかを知りたくて仕方なくなりました。
また、全てが、不思議なほど千音好みに整えられていました。

台所に向かうと、一人の少年が、鼻歌を歌いながら楽しそうに料理をしていました。
千音を見ると、食堂で待つように促しました。
千音は少年の目の奥の美しさに、安心して言われるままに、食堂へと向かいました。



「うわぁ~!美味しそう~!!」
千音の好きな、魚料理 たっぷりのチーズ かぼちゃのスープ何から何まで千音の好物で、テーブルいっぱいに並べられていました。
千音は、嬉しさに目を輝かせながら、夢中で食べ始めました。
「あぁお腹いっぱい!」
千音は幸せな気持ちになり、自然と笑みがこぼれました。

そこへ、さっきの少年が現れました。
千音は、少年に心からの感謝を伝え、眠っている間に、なぜ城内が整っているのかを聞いてみる事にしました。
少年の話ではこうです。
少年は、両親を7歳の時に亡くしました。
料理好きな母と農家をしていた父の教えのお陰で、何とかひとりで生きていけるだけの、生活力と食の知恵があったため、大人に頼ることなくひとりで生活してきました。また料理の腕も良かった為、その噂を聞きつけた村人がホームパーティの時に、料理担当のひとりとして、少年を雇いました。これをきっかけに料理担当として多くのパーティに呼ばれる事となりました。そこで、出会った男の人に、この城で「千音という女性の専属料理担当になるように」と依頼を受けたのでした。実はその前日少年は夢の中で「光の中でひとりの女性に料理の腕をふるっていました。」その時の自分は、今までに感じたことが無いほど、充実していました。
その翌日に、依頼されたので「縁」を感じたまま快諾し、この城にやってきました。

この城に、やって来た時はすでに、千音はふかふかのベットで眠り続けていて、城内も今の様に、美しく整えられていたというのです。
依頼をしてきた男性の名は「ジェファー」と名乗り、それ以上はいくら聞いても教えてもらえませんでした。
契約には「質問に応じない項目は一切詮索しないこと」「千音の心身の健康を守り抜くこと」「これに反すると判断した場合は即座に解雇となり、所持する土地や資産は全て差し押さえとなる」「尚、厳守できた暁には、子孫三代まで十分な報酬を与える」というのが、最も重要な契約事項でした。
また、契約を結ぶ前に必ず自分の目で城に向かい確認することを命じられ、その通りに城に向かい千音を初めて見た時に、夢の中の女性と印象が全く一緒で、これは「自分の務め」であると自分の感覚が確信したのでした。
千音は、その男性が実は来音であるのではないかという可能性も含めて、少年に話を聞いてみましたが、少年もサッパリ分からない様子でした。
その話が終わると、「美味しい料理の秘訣」を聞いたりしてすっかり意気投合し、次は一緒に「美味しいハーブクッキー」を作る事を約束しました。

千音は、嬉しくてその日は安心してぐっすりと眠る事が出来ました。

夢の中での千音は、月明かりに照らされた深い森にいました。
その森は慈愛に満ちていて、暗くても、幼い自分の姿は、ひとつも恐れていませんでした。
月明かりの向こうで、来音が呼んでいる気がしました。
「来音。待って、待って」
そう、駆けだした千音はいつの間にか。大人の姿へと変わり
辺りは、すっかりと明るく陽の光に照らされていました。
その時の、千音の気持ちは
無性に嬉しくて仕方なくて、愛しい存在に向かい駆けだしている様でした。

夢から、覚めて扉の向こうに男の人の影が見えました。
「来音・・?」
ベットから飛び起き駆けだして扉に向かった時には、もうその姿はありませんでした。
その変わりに一凛の「赤い薔薇」が置かれていました。

その一凛の赤い薔薇を手に取り、千音は涙が止まりませんでした。
なぜなら、薔薇の時期になると来音は、必ず千音に赤い薔薇を贈ってくれたからです。
「くらしの環境を整えてくれたのは、きっと来音に違いない・・。」
そう想うほど、言葉にならない涙が、次々と溢れ出るのでした。
続く
⇒この物語は構成する時に「自分の過去世が現世に影響している部分」をカードリーディングで引っ張り出しながら構成しました。粗方の展開は決まってますが、細かい部分や来音と千音の登場人物以外は、全て直感で書き進めています。半分過去世の一部、半分フェイクのハズでしたが・・・。
なぜこの構成になったのかは、完結後にお話ししたいと思います。
本日もありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
ライトナビゲーション大分